薫子様、一大事でございます!

飼われていた猫が、ゴミなんて漁るかしら。

そう思いながら、立ち止まった。


微かに香る、湿った空気。

今朝、滝山が言っていたように、そろそろ梅雨にでも入るのかな。


雨は苦手。

なかなか外へ出してもらえなかった子供の頃、遊ぶのは自宅の敷地内ばかりで、ただでさえ窮屈な気分になるのに、雨はそんな気持ちを更に落ち込ませた。


そんな季節が、またやって来る。



「薫子様! 薫子様!」


遠い昔へ行っていた意識は、滝山の素っ頓狂な大声で呼び戻された。


視線を投げると、私に「おいで」とばかりに滝山が大きく手を振る。


「薫子様、一大事でございます!」

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