弟、時々恋、のち狼

昇降口で見せたあの笑顔は……アタシの目の錯覚だったのだろうか。
声をかけてくれたのも、幻聴で……。

そんな気すら、してくる。


笑うなんてありえない。

彼の周りの空気が、そう言っていた。


…………でも。


そんなこと、ない。


今も鳴り続けているあの声。
もっと柔らかかったけれど、教壇であいさつした声と同じだった。

妄想で、声を当てられるもんか。

ツカサくんは、確かにアタシに向かって笑った。
アタシに話しかけたのが聞き間違いなんかであるものか。


「なぁんだ。つまんないの。
じゃあ、部活見学で上の学年でもチェックしてくるかな~」


切り替えの早い詩織は、もう、この学年には見切りをつけたらしい。
素早いと言うか、へこたれない、と言うか……。
さすが、入学前から高校生活の目標を恋愛に定めていただけある。


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