インセカンズ
ここが会社の会議室の一角で声を出せない状況だということが緋衣の罪悪感と羞恥心を煽ったのか、絶頂後の余韻はいつも以上に深く長く続いた。ふと意識を取り戻したのは、どこからか聞こえてくるタイピングの音のせいだった。ぼんやりと薄目を開けると、安信が時折ファイルを見ながらキーボードを叩いている。その顔からは一切の怒りが消え去り、集中した目付きで画面を見ている。

緋衣は、どこで自分の意識が途切れたのかうろ覚えだったが、きちんと服を身に着けた状態で、並べられた椅子の上に寝かされていた。ジャケットは皺にならないようにと、肩に掛けてあった。

「身体は大丈夫か?」

緋衣が目を覚ましたことに気付いた安信が声を掛けてくる。そこに謝罪の言葉はない。

「はい……」

下腹部には、まだありありと安信の感覚が残っている。情事が終わってもなお、緋衣の身体には熱が篭ったままだというのに、何もなかったように清潔そうな顔で仕事をしている彼が憎らしく思えた。

ゆっくりと身体を起こすと、絡まる髪を解すように耳の下辺りから指を入れてそのまま毛先まで滑らせる。身体のあちこちに安信が残していった感触がその存在を知らしめるように甘く疼いた。

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