インセカンズ
「……嘘は言ってなかったのか。抱き合って手でも握り合ってただけか? 婚約間近の彼氏も可哀相にな。本命キープしておきながら、片や純愛を貫いてたってとこか? なぁ、アズ。俺は何番目だった?」

この場から逃げ出したくても、もし山崎と鉢合わせしたらと思うと安信に対して強く出れない。山崎からあんな話を聞かされた後では尚更だ。けれども、何より、緋衣自身が本気で逃げ出そうとは思ってなかった。久しぶりに嗅いだ彼の匂い、抱き締めてくる腕の強さ。一時も忘れたことはなかった。狂おしいほどの感情が唐突に湧き出して、一瞬にして緋衣の身体に火をつける。

「身体は一番だったか? そうじゃないとは言わせねーけど」

安信が欲情を露わにしたぎらつく瞳で緋衣を覗き込む。今すぐその首に抱きついて、ひた隠しにしてきた想いをぶつけたい。そうできたならどんなに楽だろう。緋衣は自分の立場を良く分かっている。誰も傷つけたくない。傷つきたくない。一貫しているその思いは何より強いものだ。

「下脱いで、こっちに尻向けろ」

安信の言葉は、緋衣をいつもはっとさせる。本当に嫌なら逃げだせばいい。そうしないのは彼を求めているからだ。緋衣は、安信に背を向ける。酷い言われようをしても彼が欲しくてたまらないから、言われるまま従順にセットアップのパンツを脱ぐと自ら穿いているタンガを横にずらす。

「……誰でもいいのかよ」

安信は、悲痛ともとれる面持ちで低く呟いて緋衣の腰に手をやると、既に硬くなっているそれを彼女の秘部に宛がい、ひと思いに貫いた。

緋衣はとっさに口を押さえて、声にならない叫びをどうにか堪える。

安信の切っ先は、ひどく熱かった。

自分の方から誘うことはないと言った安信が、本能のまま緋衣に劣情をぶつけてくる。彼を突き動かした怒りが嫉妬心からくるものだとしたら、どんなに嬉しいだろう。例えそれが今だけの偽りの感情だったとしても。

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