インセカンズ
「……ヤスさん。そういう顔してこれまで修羅場乗り越えてきたのかもしれないですけど、私には通用しませんよ」

緋衣は、鼻をすんと啜うと、にこりと笑って小首を傾げる。

「いいねぇ。やっぱ俺、アズのこと好きだわ」

「私も好きですよ」

「じゃあ、俺のどこがいいか一つ挙げてみ?」

「だから、身体だって言ったじゃないですか」

「ほら、恥ずかしがらずにさ。何なら、耳打ちでも構わないから」

安信はそう言うと、耳に手を当てる。

「もうっ! 言いませんってば」

緋衣は、赤くなった顔を隠すように、ぷいと顔を背ける。

「でたよ、ツンデレ。まさか、本当に身体しか思い付かない訳じゃねーよな……?」

半ば真剣な面持ちの安信を視界の端に認めると、緋衣は思わず白い歯を溢す。

「この先もずっと、私がシワシワのおばあちゃんになるまで一緒にいてくれたら教えてあげますよ」

緋衣は安信の両手を取って立ち上がると、「区役所、行くんでしょ?」と彼を振り返った。



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