インセカンズ
「ダークホースっていうか、飲み会メンバーはみんな何となく勘付いてたよな」

緋衣が座るのは同期ばかりが集められたテーブル席で、いつもの面子で構成されている。

記念撮影に応じているアミと山崎を微笑ましそうに見つめていると、隣りの大野が言う。

「確かにね。でも、二人とも幸せそうで良かった」

アミは、山崎にプロポーズされるまで本当にそんな気はなかったらしく、彼から贈られたエンゲージリングを前に数秒固まったままだったというのは、後から山崎に聞いた話だ。憎まれ口を叩き合っていた二人は、婚約したからといって仲睦まじい関係にはほど遠く、三日前に軽く前祝いを開いた時には、一時些細なことで険悪なムードを漂わせたが、この二人はいつも尾を引くことはない為、お開きにする頃にはケロっとして既に一緒に暮らしている部屋に二人して帰っていった。

カップルの数だけ幸せの形があるものだと緋衣は思う。

2ヶ月後には、ミチルとヒデの結婚式が控えている。大野もそれに出席して、双方の友人代表としてスピーチする予定だという。けれども緋衣は、大野が今日一日ドレスで着飾るミチルの姿を目で追い、その度にまぶしそうに目を細めていた事を知っている。誰も傷つかない恋愛なんてない。緋衣にそう言った安信の姿はここにはない。

「それにしても、ヤス遅いよね。急遽、取引先から数合わせでゴルフ誘われたって言ってたけど、そろそろ来てもいい頃じゃない?」

ミチルは、解放感のある庭園を見渡しながらワイングラスを傾けると、緋衣に目配せする。

緋衣は、ミチルにだけは安信との事を打ち明けたが、社内恋愛ということもあり公にはしていない。

「そうだね。っていうかさ、ミチルは、ようやくお酒の飲み方分かってきたよね」

急にガクンとくる事がなくなったのは、結婚が決まってからだ。それまでは、どこか大野の気持ちを試していたところがあったのかもしれない。ヒデが大切だと言いながら、青春を共に過ごした大野との間で揺れる気持ちを持ち続けていたのだろうと緋衣は思う。

「あ、あれヤスさんじゃね?」

高橋が言うと、ノリコは彼の視線の先を追って振り返る。

「ヤスさん、こっちです~!」

安信の姿を見つけたノリコは、途端に嬉しそうに頬を綻ばせると顔のまえで両手を振る。すぐ側に恋人がいるというのに他の男に媚びを売るノリコの姿を、恋人である当の高橋は仏のような懐の深さでにこやかに見守っている。今日はこの場にアミがいない為、鬼の居ぬ間にとばかりに心行くまで笑顔を振り撒いている。

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