インセカンズ
安信が‘お疲れ’と言いながら席に着くなり、ボーイが飲み物を運んでくる。彼はビールを頼むと先ずは喉を潤した。

「式、どうだった?」

「素敵でしたよ」

すぐに空になった安信のグラスに、隣りに座る大野がビールを注ぐ。

「さっき挨拶してきたけど、結構あの二人いい感じだな」

「喧嘩するほどってやつじゃないですか?」

「ヤスさんもお疲れ様でした。結構掛りましたね」

高橋が労いの言葉を掛ければ、安信は溜息交じりに頷く。

「なんだかんだあってさ。ミチルのとこは再来月だよな?」

「はい。そろそろ招待状が届くと思います」

緋衣は、安信を中心として交わされる会話を聞きながら、彼を連れて初めて実家に帰省した日の事を思い出していた。

やはり礼儀として、婚姻届を提出する前に緋衣の実家に挨拶に出向きたいと言う安信の言葉もあって、善は急げとばかりに翌週の週末には両親に紹介することになった。最初こそ、彼を訝しげに見ていた父親だったがあっという間に彼の魅力に引き込まれてしまい、夕食だけでは飽き足らず、その後のお酒にも付き合わせた。兄二人が下戸なこともあり、安信がイケる口だと知った時の父親の喜びようはなく、実家を後にする頃にはすっかり梓澤家の一員として扱われていた。

その足で区役所に出向く予定だったのだがタイミングを逃してしまい、現在に至っている。

今では、父親の方からいつ結婚するのだと急かされているが、緋衣は焦ってはいない。

掛け値なしの恋をして、その先にあるのが結婚だったら良い。

二人のタイミングは熟しているようにも思えるが、自然の成り行きに任せたいと思っている。

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