インセカンズ
「アズはどう思ってんのか知らないけど、俺にとってアズは歴とした婚約者で、あれから随分タイミング逃しているけど、いつ結婚しても良いと思ってる。ただ公にしていないだけで、アズがいい加減ゴーサイン出してくれるなら、週明けの月曜日に会社に言うよ」

「でも、月曜は何かとバタバタするし」

緋衣は、彼の魅力的な唇が動く様子を見ながら、考えるようにしてうーんと喉の奥を鳴らす。すると安信は、痺れを切らした様に緋衣をキッと鋭い目で見つめる。

「俺さ、ずっと思ってたんだけど、覚悟ができないのはアズの方じゃないのか? この半年、いつものらりくらりかわされてきたような気がする。言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。口足らずで擦れ違っておまえを失うくらいなら、腹割って取っ組み合いの喧嘩をする方がまだいい」

「ヤスさんのことは好きですよ」

安信を試しているつもりはない。ただ、こうして困っている彼を目の当たりにすると、自分が甘えている事に気付かされる。

「そういう事さらりと言う割には、いつも肝心なこと言わないで我慢してるんじゃないのか」

そう言って顔を覗き込んでくる安信の視線から逃れるように、緋衣は彼の首に抱きついて顔を隠す。ゴルフ場でシャワーを浴びてきた彼の髪はいつもと違うシャンプーの匂いがする。たったそれだけの事が緋衣を不安にさせる。

「……恐いですよ。本当は、まだ恐いです。私はヤスさんが好きで、ヤスさんも私を好きだって言ってくれるけど、明日にはどうなってるか分からないじゃないですか。今が幸せだから、もうこれ以上はないんじゃないかって、一人でいるとつい余計なこと考えてしまうんです」

安信は、回された緋衣の腕に力が入ったのを感じて、落ち着かせようとぽんぽんと肩を叩く。

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