インセカンズ
「不安にさせてごめんな。最近お互い忙しかったし、ゆっくり時間取れなかったもんな。でもさ、アズ。俺は逆で、日に日に幸せを感じているよ。洗面台にそれまでなかったアズの髪留めが置いてあるのを見つけたときとか、アズが俺のスエット着てソファで転寝している姿を見たときとか、そんな些細なことで、俺は簡単に幸せ感じるんだよ。朝起きたら隣りにアズがいるってだけで、満ち足りた気持ちになるんだよ。

これって、もう愛だろ。ただそこにいるだけで俺のテンション左右させられるアズは、自分が俺にとってどんなに大きな存在なのか、もっと知った方がいい」

安信は、さっきから、緋衣の背中を優しく上下に撫でている。

「すみません。ヤスさんにそこまで言ってもらわなくても、ちゃんと大切にしてもらっていることは分かっているつもりでした。自分に対する自信のなさから、勝手に不安になっていただけです」

まるで子供みたい……。緋衣は、温かな手のひらの感触を背中に感じながら思う。安信が相手なら素直に甘えられる。躊躇いはあるものの、自分の弱さを見せることもできる。これまで付き合ってきた相手には、上辺だけの自分しか見せてこなかったのかもしれない。ふと、‘おまえが分からない’と、似たような言葉を残して緋衣のもとを去っていった過去の恋人達のことを思い出す。もう同じ過ちをしたくはない。

「ヤスさん……」

緋衣は身体を起こすと、彼をじっと見つめる。彼の双眸には、緋衣だけが確かに映っている。

「もういいだろ? 楽しいときも困ったときも、何があっても絶対おまえの傍にいる。だから俺と結婚してほしい。俺がアズを幸せにしてやりたい。アズは俺の女だって、大声で叫んで見せびらかしたい」

焦がれたような熱い眼差し。その魅力的な唇から紡がれる愛の言葉に、緋衣はぐっと胸を詰まらせる。


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