インセカンズ
「今日はお疲れ様でした」

降車した安信に続いて緋衣も一旦車外に出て声を掛けると、彼は緋衣を観察でもするかのように長い首を傾げる。

正面からまじまじと見つめられると、慣れた相手とはいえ、緋衣は一瞬どきりとしてしまう。

イイ男は、何度見てもイイ男……。緋衣がどこか他人事のように思っていると、安信は助手席の窓をコンコンと叩いて運転手に開けさせて、ここで清算するように伝える。

「前から思ってたけど、アズって本当はもっと飲めるだろ?」

横目で言いながら支払いを済ませる安信の姿に、緋衣は慌ててバッグの中から財布を取り出すも、突然の事であたふたしているうちにタクシーは行ってしまった。

「俺んちで飲み直そうぜ。酒の種類は結構あるよ」

「え? えっ? ていうか、ちょっと待ってください!」

くるりと踵を返してマンションの自動ドアを潜る安信を追いかける。

「私、まだ何も返事してないんですけど」

「返事も何も、年上の言うこと聞けないってか?」

オートロックを解除してフロアへと突き進んでいく安信に追い付くと、ちょうどエレベーターの自動ドアが開いた。

「こんな事、今までなかったろ? たまには付き合えよ」

「……まぁ、いいですけど」そこまで言われては断る理由も見当たらないし、安信が言う通り、確かに飲み足りない。

元来アルコールに強い緋衣だが、会社絡みではあまり飲めないふりをしている。その方が何かと都合が良いからだ。
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