インセカンズ
「ヤスさんが必要以上に絡んでくるのは、そういう事だったんですね……」

緋衣は、重い溜息を吐いた。

「ミチルも分かってくれてると思うけど、彼女を信用してない訳じゃないんです。ただプライベートを会社に持ち込むのが嫌なだけで……。普通は何かあったら人に相談するものなのかもしれないけど、自分の話をするのは得意じゃないし、一人で解決できる事は何でも自分でしてきたから、最初から人を頼るっていう発想がないのは確かですけど。勿論、強がっているつもりもないんですけどね」

緋衣は自分自身をよく理解しているつもりでいたが、口に出して言葉にすると改めて自分という人間を再認識させられるものだと思う。彼女は、三人兄妹の末っ子だが、甘やかされて育ったという認識もなければ、末っ子特有のスキルである甘え上手を身に付けているとも思えなかった。手のかからない子供だとは、言われてきたが。

「俺はさ。ミチルには頼まれたけど、正直、自分勝手な人間だから面倒事は好きじゃない。だぶん、相談されても適当な事しか言えない。でも、話を聞くくらいなら聞いてやれるし、それでアズの抱えてるもんが楽になってちゃんと眠れるようになればいいとは思うよ。身体壊す前にな」

安信の声には温かみが含まれている。それが余計に居た堪れず、穴があったら入りたい衝動に駆られてしまう。緋衣は照れ隠しに、あー、と溜息交じりの声を漏らすと天井を仰ぐ。

「もうホントに……。遠回しに言いすぎです。全然気付かなかった……!」

緋衣は、真っ白な天井を見つめると目を閉じる。

「そうでもねーよ。身体がとことん疲れれば、嫌でも人間寝れるしな」

「なるほど……。まさか心配されてるとは思ってなかったけど、睡眠不足の原因はヤスさんが言った通り、失恋とは違うけど恋愛絡みです。内容は言うつもりはないので、聞かないでくださいね。エッチは……してもしなくても、どっちでもいい。あ、別にやけになってる訳じゃないですよ? でも、するとしても今じゃない気がするし……。っていうか、なんでミチルと約束したのに私に話しちゃったんですか? どんなに飲んでも酔える気がしない」

「そうだよな。俺も言わなければ良かったって、今思ってるよ」

安信は、反省とともに深い溜息を吐く。単なる会社の同僚としての浅い付き合いでしかなかったが、緋衣の自意識の高さには気付いていた。それを思えば、やはり敢えて言うべきではなかったのかもしれない。
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