インセカンズ
「……でも、一人くらい知ってる人がいるって事は、今後何かあった時に都合がいいかもしれないですね」

緋衣は、気が済むまで天井を仰いだ後、身体を起こす。
何気なく口から出てきた言葉ではあったが、背中を押してくれる様だった。

「なんだよ。その、転んでもただでは起きないみたいなの」

安信には、緋衣の言葉は強がりなのか思い付きなのか分からなかったが、思っていたよりは元気なんじゃないかと、ワインを傾けながら安堵する。

「だって、何も言わなくても分かってる訳じゃないですか」

「強かだな。まぁ、渡りに船ってやつで、何かあったら俺に言ってみれば? 何とかなるかもしんないし、全く当てにならないかもしれないけど」

「ご迷惑お掛けすることはないと思いますけど、その時はよろしくお願いしますね」

「迷惑なんてことねーよ。アズならな」

「……なんで今、倒置法?」

すっかり気を取り戻した緋衣は、からかい気味に尋ねる。

「特に理由はないので、そこ掘り下げる必要なし」

「えー? ちょっと特別っぽくて嬉しかったですけど」

緋衣が言えば、安信はハッ、と息を吐き出すようにして笑う。

「そういうのは真顔で言うんじゃなくて、少しくらい顔赤らめて言えよ」

「仕事仲間にいりますか、それ」

「今、一線引いたな。優等生」

安信は、一瞥する緋衣に皮肉っぽい笑みを浮かべながら、彼女のグラスにワインを注ぐ。

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