インセカンズ
「私の話ばかりだと退屈じゃないですか? ヤスさんは? 子供の頃とか学生時代、どうだったんですか?」

緋衣は、櫛形に切られたトマトをフォークで突きながら安信に尋ねる。

「俺? 俺は男だし、子供の頃から好き勝手させてもらってたよ。兄弟は、妹が一人」

「ヤスさんがお兄さん? 確かに言われるとそんな感じですね。それで? ファーストキスはいつだったんですか?」

「それ、マジで言うのかよ」

緋衣は隙を与えず、矢継ぎ早に質問をする。

「じゃあ、初めて彼女ができたのは何歳?」

「それ言ったら、ほぼさっきの答えに繋がるだろ」

あからさまに不貞腐れる安信に、緋衣は思わず笑ってしまう。

「ふふっ、困ってる。ヤスさんて、自分の事になると照れ屋さんなんですね」

普段の安信は、相手の話を上手に聞き出すが、自分の事となると卒がない話しで上手にかわす。緋衣は、彼の方こそ優等生だと思っていた。良い意味で意表をつかれて、それを嬉しいと思うと自分がいる。

「照れ屋さんって……。三十路捕まえて言うセリフかよ。アズこそ、昨晩から一切恥じらいが感じられないんだけど。平気な顔して男にスッピン見せるわ、寝顔見せるわ。無防備すぎんだよ」

無防備だと言われ、昨晩からの一連の流れを思い出してみる。確信はなかったが、安信が手を出してくる事はまずないだろうとは踏んでいた。

兄達に囲まれて育ってきたせいか、思春期に入っても異性との距離感に悩む事はなかったし、今でも学生時代からの男友達と二人きりで飲みにいくこともある。お互いにそういう雰囲気にならない事が分かっているから、身構えることなく気楽に付き合っている。女友達とはまた少し違うが、大切な友人に変わりはない。長い付き合いですっかり気を許している事もあって、過去に安信と同じようなセリフを言われた事があったとふと思い出す。
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