インセカンズ
「ああ。門限は6時とか、そういう?」

「それは、高校の時ですね。うちは三人兄妹で兄が二人なんですけど、待望の女の子だったとかで、特に父親が」

「分かる気もするわ。でも、そんなんで、どうやってバーで働いてたんだよ? 親父が送り向かいしてたとか?」

「まさか! どうしても一人暮らししたいって駄々こねて、女子オンリーのシェアハウス借りたんです。その時に」

「へぇ。で、夜遊びも男もその時に覚えたんだ」

「いいえ。っていうか、このスクランブルエッグ、ちょうどよくふわふわでとろとろですね。美味しい」

確かにその頃ハメを外して夜の街を出歩いた事もあった。けれども、男を知ったのはそれよりもずっと前の事だ。正直にそう言っても良かったが、その後で質問攻めにされるだろう事は目に見えていて、少し強引にも思えたが話題を変える。

「褒めてもこれ以上は何も出てこないぞ」

「充分です。下手したら私の普段の夕食より豪華です」

「そりゃ、作った甲斐あったわ。って、強引だな、アズ。話逸らすなよ」

呆れた口調で窘めてくる安信に、緋衣は内心で溜息を吐く。

安信は、面倒な事は嫌いだと言いながらも、ミチルから言われるままに緋衣の心配をした挙句、部屋にまで泊めた。昨晩、緋衣の意識が途絶えたのはソファの上でだったが、朝になってみればきちんとベットで寝ていて、当然ながら安信が運んだのだ。朝は朝で、ついでだとしても立派な朝食でおもてなしをされている。全く、訳が分からない。

いくら面倒見が良いとはいえ、単なる同僚でしかない緋衣にここまでするものだろうか。至れり尽くせりで、安信のような魅力的な男性にされてしまうと恐いくらいだ。「これ以上は何も出てこない」というセリフは、自分の方こそ使いたいと緋衣は思う。勘違いしたくなる思いをトマトジュースと共に飲み込む。
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