インセカンズ
緋衣はそれに気付きながらも、気付かないふりをする。

「どうやったら、そういう思考回路になるんですか? まさか、拗ねてないですよね」

「んな可愛いマネできるかよ。俺のキャラ考えろよ」

「ヤスさんのキャラなんて、私の中ではとっくに崩壊してるし」

「前は兎も角、今はなんだってんだよ?」

「言ってもいいんですか?」

「ぜひ聞かせてほしいね」

安信がそう言うので、緋衣は躊躇いがちではあるが、思ったままを口にする事にした。

「じゃあ、……おっさん、ですかね?」

「まだおっさん違うわ」

間髪入れず抗議してくる安信に、緋衣は思わず噴き出してしまう。

「前に自分でも言ってたじゃないですか」

「自分で言う分にはいいんだよ。人に言われると、結構HP持ってかれるんだよ」

「だったら、私の前でもこれまで通り王子様でいてくださいよ」

「今さら、アズの前でめんどくせーことできるかよ」

「じゃあ、おっさんで仕方ないですね」

ちょうどタクシーは駅前のロータリーに到着し、運転手が乗車料金を案内してくる。

「……何か?」

お釣りのやり取りをしている最中、安信がふと運転手の視線を感じて怪訝に口を開けば、初老の運転手は微笑ましそうに緋衣へと視線を走らせる。

「バーに寄るんだったら、ここから左へ少し行くと老舗の雰囲気良い店があるから、もしだったら行ってみたら」

にこやかに話す運転手に、緋衣と安信は顔を見合わせる。
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