インセカンズ
「あ……。少し煩さくしましたね。すみませんでした。探して行ってみますね」

「いやいや。楽しいお話聞かせてもらいましたよ。お気をつけて。ありがとうございました」

タクシーを下りた二人は、取りあえず歩きだす。

「もしかして、バカップルだと思われたんじゃね?」

「ヤスさんもそう思いました?」

「ああ。最近アズといるとどうも調子狂うんだよな」

首を捻る安信に、自分も同じだと緋衣が頷く。

本来の緋衣は、掛け合いのようにぽんぽんとテンポ良く話したりしないのだが、安信といると軽口が口をついて出てしまう。彼の言動に遠慮がないからなのか、つい気が緩んでしまうのかもしれない。恋人である亮祐とだって、ここまでざっくばらんに話したことはない気がする。

「それならお互い様だな。ところで、店どーする?」

「せっかくなので、さっき教えてもらったお店にしますか? えっと……。ちょっと歩く見たいですけど、ここ左に行くとありますね」

緋衣は、携帯画面を見ながら、安信の一歩先を行く。

「そういや、アズと二人で飲みに行くのも初めてだな」

「そうですね。会社の同僚といっても、異性だからそういうものなんじゃないですか?」

「まぁな。下手に見られて噂になるのも面倒だしな」

「それは、ヤスさんだからですよ」

「俺なんて、おっさんなのにな」

しれっと言うものの、言い方に棘があるのは明らかだ。



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