インセカンズ
「だから、そういうの、どこまでが冗談なのか、限りなく冗談の中にほんの少しだけ本気が混じっているのか、それとも75%位は本気なのか、ヤスさんは分かりづらいんです」

「仮に、俺が、アズが言う75%本気だとしたら、おまえはどうすんのって話だろ。相手がどうなのかじゃなくて、アズがどうしたいのかだろ」

緋衣はイライラしている自分に気付く。愛の言葉を貰いたかった訳じゃない。けれども、欲しかった言葉でもない。結局、この状況でどんな言葉を言われても納得はできないのかもしれない。

「そうやって選択肢を相手に委ねるのって、恋愛の場合優しさじゃないですよね。主導権を握って優位に立ちたいだけで、単なる卑怯者としか思えないです。恋愛は一人でするものじゃないのに、ヤスさんはいつも一人だけ高いところから見物でもしてるみたい」

緋衣は腕組みをすると安信を見据える。

「アズの言いたい事は分かるよ。ただ、おまえは不遜だよ。いくら正義を振りかざしても、恋愛にそんなのは通用しない。満身創痍で勝ち取るものじゃないのか?」

口元に不敵な笑みを浮かべる彼は緋衣とは違い、このやり取りを冷静に楽しんでいるようだった。

「恋愛はゲームじゃないし、それこそヤスさんは自分が戦利品に仕立てられて嬉しいんですか? さっきの、相手がどうなのかじゃなくて本人がどうしたいかっていうセリフ、そのままお返ししますよ」

どうしてこんな話になったのか、緋衣には分からなくなっていた。着地点が見えないまま、口は次から次へ言葉を紡いでいく。

「生意気言うねぇ、アズ」

「女の噂が絶えない軽い男の言葉なんて、信用ないだけです」

緋衣は言い切ると同時にハッとして口を噤む。安信の眉がぴくりと痙攣したように動いて、一瞬にして彼が纏う空気が変わったのが見て取れた。
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