インセカンズ
「アズ……」
安信は彼女を呼ぶと、参ったように溜息を吐く。
「俺には、アズの行動全てが誘っているようにしか思えないんだけど。俺に焼きが回ったのか、それとも罠が仕掛けられてんのか、一体どっちだ?」
そう言われて、緋衣はすぐには答えられなかった。自分でもよく分からないのだから、上手く説明なんてできるはずもない。
「どっちもそんなつもりはないんです。もし誤解させるような行動があったとしたら謝ります。……ただ、自分でもどうしてこんなことになっているのか分からないんです」
「……つまり、便乗するなら今ってことだな」
安信は振り払われたばかりの手で、目を伏せてしまった緋衣の顔を上に向かせると、そのまま唇を重ねた。
「この意味分かるか? 俺は、一度きりで終わらせるつもりはないってこと」
「……ヤスさん、彼女いますよね」
「だから? 始めから分かっていたことだろ」
「そうですけど、倫理の問題です」
「今さら、道徳を持ちだすのか? アズが嫌なら、ノーとひとこと言えばいいだけだ。それで終わる」
安信は嘲笑うと、今度はまるで緋衣を射抜くかのような真剣な眼差しを向ける。
「そんな簡単な事じゃない……」
実際は至極簡単なことだ。自分のポリシーに従ってノーと言えば良い。ここで拒絶すれば、ああは言っても安信はあっさり手を引くだろう。
亮祐がクロと決まったわけじゃない。けれども、安信と身体だけの付き合いをして、その先に何があるというのだろう。何もない。一度は関係を結んでしまったが、彼は恋人の存在を否定しなかった。人の幸せを横から手を出して邪魔するつもりはない。それなのに、どうしてたったひとことノーを言えないのか。
「会社での事を気にしているのか? それくらい、アズならこれまで通り上手くやれるだろう」
安信が言うように、確かに緋衣であれば卒なくできるだろう。
「違くて……。そういう事じゃなくて……」
緋衣は言いたいことが纏まらず、前髪をくしゃりと握る。
安信は彼女を呼ぶと、参ったように溜息を吐く。
「俺には、アズの行動全てが誘っているようにしか思えないんだけど。俺に焼きが回ったのか、それとも罠が仕掛けられてんのか、一体どっちだ?」
そう言われて、緋衣はすぐには答えられなかった。自分でもよく分からないのだから、上手く説明なんてできるはずもない。
「どっちもそんなつもりはないんです。もし誤解させるような行動があったとしたら謝ります。……ただ、自分でもどうしてこんなことになっているのか分からないんです」
「……つまり、便乗するなら今ってことだな」
安信は振り払われたばかりの手で、目を伏せてしまった緋衣の顔を上に向かせると、そのまま唇を重ねた。
「この意味分かるか? 俺は、一度きりで終わらせるつもりはないってこと」
「……ヤスさん、彼女いますよね」
「だから? 始めから分かっていたことだろ」
「そうですけど、倫理の問題です」
「今さら、道徳を持ちだすのか? アズが嫌なら、ノーとひとこと言えばいいだけだ。それで終わる」
安信は嘲笑うと、今度はまるで緋衣を射抜くかのような真剣な眼差しを向ける。
「そんな簡単な事じゃない……」
実際は至極簡単なことだ。自分のポリシーに従ってノーと言えば良い。ここで拒絶すれば、ああは言っても安信はあっさり手を引くだろう。
亮祐がクロと決まったわけじゃない。けれども、安信と身体だけの付き合いをして、その先に何があるというのだろう。何もない。一度は関係を結んでしまったが、彼は恋人の存在を否定しなかった。人の幸せを横から手を出して邪魔するつもりはない。それなのに、どうしてたったひとことノーを言えないのか。
「会社での事を気にしているのか? それくらい、アズならこれまで通り上手くやれるだろう」
安信が言うように、確かに緋衣であれば卒なくできるだろう。
「違くて……。そういう事じゃなくて……」
緋衣は言いたいことが纏まらず、前髪をくしゃりと握る。