メランコリック
お店が開店して1時間。平日午前中の店内はまだ人もまばらで静かだ。
環境音楽が流れ、差し込む日差しで床も壁もキラキラしている。
美しい好きな時間帯だけど、仕方ないから移動しよう。

私はスタッフルームを抜け、非常階段を1階まで降り裏口に出る。
自由が丘には作りが古いビルが多い。裏口が狭かったり、搬入用エレベーターが取り付けられなかったり。
このバブル期に建てられたファッションビルもそうだ。イデアはこのビルの5階と6階をツーフロア丸々借りている。
私は三往復してダンボールを5階のバックヤードまで運んだ。

運び終えて、ふうっと一息つくと、間続きのスタッフルームのドアが開く。
私はそこに現れた人を見て、密かに嬉しくなった。


「杉野(すぎの)さん、おはようございます」


「ああ、藤枝。おはよう」


杉野雅紀(すぎのまさき)マネージャー。東京南地区の統括マネージャーで、この自由が丘店の店長も兼任している。
私服勤務の職場にスーツ姿の彼がやってくると、空気がぱりっとする。
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