メランコリック
小西は何も映していない瞳をしていた。
透明な瞳。
静かに大人びた瞳。
無目的な瞳。
俺は子ども心に、小西の心の虚ろさに気付いていたけれど、何をできるわけでもなかった。

小学4年の夏のこと。

俺たちは山間の沢にいた。町のはずれの自転車で行くそこは、中高生の度胸試しの岩があった。
突き出した大岩から、沢の深い場所に飛び込むのだ。

何度も事故が起こっていて、学校も自治体も飛び込みや遊泳を禁止している場所。
それでも、男子は年頃になると、こぞってそこに飛び込んだ。

俺たちは飛び込みにはまだ子どもだった。
小学生は飛び込まない。それは地元の子どもたちの暗黙の了解だった。

ある日、まだ誰も来ていない早朝の沢に、俺と小西はいた。
ラジオ体操が終わると、家に帰りたくない小西は、よくこうしてぶらぶらしていた。俺はそれに付き合っていたっけ。

大岩のてっぺんに座り、小西が言った。


「相良、僕、今日は出来そうな気がする」

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