怪人十二面相 ~成功確率0.01%達成までの道のり~
第1章~Birth~
10月17日(金)快晴、午後18時40分。
新橋駅前のSL広場で、カイジ・ジュンは辺りを見渡していた。

「ニメンソ、またいつも通り15分遅刻だってよ」 
カイジは、ため息をつく。
「いつも通りのことじゃん、あの人猛者だし」 
ジュンは限られた世界で最先端の、流行り言葉を流用する。

今日は、待ちに待った新橋OLとの合コンだった。
新橋は、今や汐留、豊洲の空気を吸い、
サラリーマンの坩堝からイケイケOLが織りなす桃源郷へと姿を変えていた。

「お、あの娘達じゃね???」 
カイジは、陽が落ちてネオン街頭に映しだされてなお、
眩い煌めきを放つ、2人の女性を指さした。

彼女等もまた辺りを見回し、
時よりさり気なく携帯で本日の顔の出来栄えをチェックしていた。

「なんか、雰囲気可愛くないっすか?可愛くないっすか?」 
ジュンは、意味の乏しい繰り返し、いや、それはほぼ感情としてのそれを使う。
機関車パーシーは、感受性が豊かなのだ。

ニメンソからの事前情報によると、合コンの座組は3対3だったはず。
どうやら、相手の女性達も一人遅れているようだ、とカイジは思った。そして微笑んだ。

「お待たせ~、待った?」 
カイジはイケイケOLの二人に意気揚々と、颯爽と声をかけた。
「あ、全然。ワタシ達も、ちょうど今着いたところだよ」
感じの良い女性だ、と一言交わしてカイジは好感を抱いた。ジュンもまた同感だった。

「ぼくら一人遅れててさ~、ごめんね。結構遅れるみたいだからお店先入っちゃおっか?」 
カイジはなる早で合コンを開始したい、一心だった。
「ワタシ達の一人も20分くらいは遅れるみたいなんだよ~。先にお店で待ってましょうか」
女性OLが頷いた。男2人は感動した。
「ちなみに、お店の場所知ってる???おれら幹事が遅れててお店知らないんだよね~」 
ジュンが続いた。カイジと共鳴していた。

一瞬、相手の女性は逡巡した面持ちになった。

「ごめんなさい、ワタシ達も幹事が遅れてて分からないの。今聞いてみるよ」
カイジ、ジュンも一瞬、逡巡し、そしてほくそ笑んだ。

「あ、大丈夫。今俺らの幹事に店聞いて分かったから、
うん、大丈夫。ここから結構近いみたい」
ジュンが気を利かす。
「流石、できる~」
女性OL達の淡い黄色い歓声が上がった。
ジュンは少なからず高揚した。ジュンの小さな体が大きな体躯に膨張した。

「ぼく、ちょっとタバコ買いにあそこのコンビニにちょっと寄ってくるから、先行ってて~」ジュンはカイジに伝えた。
「ワタシも煙草吸うから、あげるよ?」 
女性がジュンをおもてなす。できそうな男の特権だ。
「いや、悪いし。俺、ちょっと煙草こだわりがあるんだよね~」 
女性の気配りをジュンは無視した。女性の評価も若干、秒でうなぎ下がった。

こうして、ジュンを残して3人は、合コン会場であるお店に赴いた。
カイジは勇み足、ジュンはあとを追って走った。女性達のハイヒールは音を立てて続いた。

道中、カイジは近い将来を思い描き、
それは青写真へ姿を変え、胸の高まりを抑えることができなかった。
が、女性達と話した話題は、至極俗っぽい内容に終始した。

そういえば、ジュンはカイジ達に追いつくちょっと前に、
見知らぬ長身の人物に肩をぶつけてしまって、少しテンションが下がっていたっけ。
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