怪人十二面相 ~成功確率0.01%達成までの道のり~
第2章~Greeting~ 
「先程お電話させて頂いたジュンですが、
 19時から予約させて頂いておりました。少し早いのですが大丈夫ですか」
「お待ちしておりました。席は開けていましたので、
 大丈夫ですよ。案内致します。こちらです」

ウェイターの男性は、とても落ち着いていて、
ビブラートのきいた低い声は感じが良く、周りを落ち着かせる効果があった。
予定通りだ、とジュンは思った。

4人は、6人席の個室に腰を降ろした。
イタリアンと和の折衷がコンセプトのこの店は、新橋の喧騒からも、
日本経済のハードワークからも隔絶された、異世界の雰囲気がそこにあった。

「飲み物は何にされますか」 
カイジのギラギラした一見スポーツ系の風貌からは似つかわしくない丁寧な口調は、
若干の違和感があったが、女性達にはそれなりに響いた。
「私はビール、私は、う~ん、白ワインで」 
女性Bの息継ぎは、艶かしい・・・、ジュンは想像した。
それに、赤ではなく白なんて。官能的ではない、魅惑的なのだ。
「じゃ、俺達はビールで。すいませ~ん」
先程のウェイターを、カイジは呼んだ。努めて、優しい声量と波長で。

間もなくして、注文された飲み物は、カイジ達の待つ個室に届けられた。

「早速だけど、乾杯しちゃおっか」
ジュンは、焦る気持ちを抑えられなかった。カイジは頷いた。
「そうだね~、まだ遅れそうだから、先に乾杯しちゃいましょうか!」
女性達も共感した。
「うん、でも遅れてくる人には悪いから、また来たら、また乾杯しましょう」 
ジュンが気を利かす。

料理のメニューの注文は、全員が揃ったらで構わないだろう、そうカイジは思った。

「それじゃあ、一足先に…」
カイジが音頭を取る。
「乾杯~~~~!」
4人の声が重なった。調度それは、バスとテノールとアルトとソプラノのように…。

それから、4人はお互いに名乗ることもなく、
それはまだ全員が揃ってないからなのか、
フワフワした空間と時間の中で、取り留めもない世間話を交わした。

「あの、、、お名前を伺っても良いですか…?」
自分からは名乗らなかったが、穏やかで温かなカイジの口調は続き、
それは一定程度女性達を落ち着かせた。
「あれ、ニケのお友達さんって、幹事さんかな?」
女性達はいきなりは名乗らなかった。ニケというのは、恐らく女性側の幹事のことだろう。
「あ、たぶんそれはニメンソのことっす」
ジュンが返す。
「ニメンソ、なにそれ~。変わった名前だね」
女性達は、特に興味もなさそうだったが、それなりに反応してくれた。
尼面祖(ニメンソ)、君は今、一体何処にいるんだ。カイジは、ふと尼面祖を思う。

「ニメンソって、どんな漢字?」
女性達が、深堀りをする。
「どっちかって言うと学者っぽくて、論理派な感じっす」
ジュンは、自然の摂理を超えて申し上げる。
「違う、違う、そっちの感じじゃなくて、漢字だよ~」
女性達の笑みが溢れる。

平行世界は恐いな、って恐らくニメンソは言うだろう、
そうカイジは感覚的に想像した。

「ワタシは、エルフ。妖精みたいな可愛い名前でしょ。源氏名じゃないから安心してね」
女性Aはそう仰ったが、とても安心できないと、ジュンは思った。
カイジは感銘していた。
「アタシ、アルテ。最近流行りのスポーツ、アルティメットはやってないけん。どちらかというと女神だよ」
女性Bはそう述べた後、ジュンは出会い系を思った。
カイジは、アルティメットを検索していた。

エルフは、マロン色か、亜麻色の長い髪が首筋にかかるほどであり、
表面は艶のある光沢を帯び、白い肌と黒い眉根や瞳をより一層輝かせていた。
恐らく、Essentialだと、カイジは思った。

体内の水分量は、まさに適切といった所で、
これはニメンソの表現だが、スラリとした長身は彼女の自然を表し、
風が吹けばしなやかに嫋やぎ、風が止めばその存在が屹立した。

アルテは、エルフと対照的で、髪は燃え上がるような黄金、
いや赤に近く、髪端はちぎれちぎれに空を目指して乱れ髪。
肌は、太陽の恩恵を受け小麦色に、、、と言うよりは、ほぼ褐色していた。

体内の水分量は、まさに砂漠といった所で、
水に飢えているのか、男に飢えているのか。
胸元はぱっくり開かれた純白のVネックシャツを、
魔が差して覗き込めば、漆黒の闇に吸い込まれてしまいそうだ。ポカリスウェット。

「ワタシ達も、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
エルフのソプラノが、カイジとジュンの鼓膜を振動させた。
「幹事の子、ニケちゃんだっけ?おれらの名前聞いてないんだっけ?」
カイジが、石橋を叩く。

ジュンは、女性達が自分と同じようなリサーチャーではなく、
直感型の諸葛孔明であってホッとした。
「聞いてないけん、知らんけん。教えてほしいだっちゃ」
アルテの発言は、酔拳のようなものだ、とジュンは思った。
カイジは、ラム酒の追加注文を検討した。

「おれ、カイジ。で、こっちの小さいのがジュン。どんぐりころころ、グリとグラ」
カイジは、自分の名は、自分で名乗るという、ジュンの概念を完全に覆す。
「はじめまして」ジュン(グラ)は、礼節に従った。或いは、俗風に…。
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