怪人十二面相 ~成功確率0.01%達成までの道のり~
第5章~Insanity~
「ウルフ達が怒っているわ」
ニケとニメンソの電話は続いた。
「お気持ちは分かります。もう、合流したのですか」
ニメンソは、誰よりも落ち着いて見えた。
実際、ニケとの電話のやり取りの最中にも、
ジュンに今の状況を3人に伝えるよう指示していた。

「まだ合流していないけど、あと2,3分でこちらに着くみたい」
ニケもニケで落ち着いていた。
恐らくニメンソとの電話をしながら、ウルフと呼ばれるその男と連絡を取っているのだろう。

え~まじ~?すご~い!なんだか不思議~、キュピオ~、とアルテ。
ジュンが、ひと通り状況を説明し終えると、通常では、理解し難い反応をアルテはした。
エルフは、冷静沈着なニメンソに見とれていた。ジュンは、たぶん絶望していた。


「そうですか、こんなことになってしまって、すみません」
ニメンソは、あくまで礼儀正しかった。
「起こってしまったことよ。でも、ウルフは、あなた達の事を疑っているみたい。
 荒手のナンパ師なんじゃないかって」
肩を落としたジュンが、心なしか震えているように、カイジには見えた。
「なるほど。考えられますね。ですが、実際は、
 僕達も本来的な合コン相手の女性達を待たせてしまっているので…」
アルテは、ニメンソのその言葉を聞いた瞬間に直通で悲しい顔をした。
「あ、ちょっと待って。ウルフがもうすぐ到着するみたい」
「了解です。一旦、エルフさんとアルテさんにも、僕の方から詳細を説明します」
「分かったわ。では、5分後にまた改めて電話するわね。いい?」
「御意です」

程なくして、電話は途切れた。
時が止まったような一瞬の静寂が、室内を包み込む。
静寂は、これからニメンソが話す内容の重要性を表していた。
重大な事実の共有と、ここにいる全員の将来についてだ。

ニメンソは、声のトーンを落として、ことの状況を説明した。
私達は、間違っていたのだということを。
事の発端や原因については抜きにして。
そして、偶然か必然かどうかも抜きにして。

「で、どうするよ?」
カイジが結論を急ぐ。
「少しだけ仲良くなったから本当に残念だけど、ここでお別れですね」
ジュンは決まり文句を継いだ。
心の中では、公私(仕事とプライベート)の関係の中で葛藤していた。
実際、そのような葛藤こそが、緊張という名の震えを起こすのだろう。

「嫌だ、嫌だ~、折角出会ったのに勿体無いけん…。とりま、連絡先交換するだっちゃ」
殆ど、アルテの目はニメンソに向けられていたが、
直接的且つ積極的な態度に、男性一同喜びを覚えた。
「待って、アルテ。こんな偶然、とってもすごい機会だと思う。私、イイこと閃いちゃった」連絡先交換以外に、今考えるべきことが他にあろうか、
と言った表情を、アルテはエルフに向けた。

男子3名は、エルフの閃きに固唾を呑んだ。-Gokuri by Suntoy -

「ニメンソさん、わたしから提案があります」
「と、いうと」
「折角だし、全員でパーティーしちゃいましょうよ」
なんということだ、その発想はなかった、とジュン。
カイジは、エルフは妖精でなく天使に似た存在のようなものだと、興奮した。
ニメンソも、珍しく驚きの様子を浮かべた。

「きた!」
興奮覚め止まないカイジが、思わず本音を心の底から発声してしまった。
ジュンとニメンソは、苦虫を噛み潰したような渋い顔をした。

「失礼します。お済みのグラスをお取りします。追加のご注文はいかがいたしますか?」
先程のウェイターは、ある種の張り詰めた空気を察知したのか、図ったように登場した。

ニメンソは、想定外だが、非常に有益な外部要因に感謝した。
そして、右指先で右脳の真ん中を、外からこつこつと叩いて、思考に集中していた。

「ウェイターさん、もしかしたら人が増える可能性があるんですが、
 その場合、席移動は可能でしょうか?」
ニメンソの機転と実行の早さに、カイジとジュンは畏怖の念を抱く。
エルフは感動し、アルテは、先程よりも深く状況を飲み込めていなかった。
「もちろん、広い席に移動はできますよ。
 ただし、予約と空き状況を確認させて下さい。何名追加予定ですか?」
「6名です」
ニメンソは、即答した。
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