甘い時 〜囚われた心〜
篠原は雛子を桜華に託すと、車の前に歩いていく。

返事をしない雛子の顔を、しゃがみ、覗き込んだ。

俯いたままの雛子の瞳には、溢れんばかりに涙が溜まっていた。

「帰ろう…」

その言葉にも返事をしない。

動こうともしない雛子を抱き上げた。

瞳に溜まった涙が流れ落ちる。

「雛子…」

「ふっ…うっ…」

我慢していた涙が流れ落ちるのと一緒に、声も我慢できずに、嗚咽混じりに泣き出した。

雛子の右手が助けを求めるように桜華の胸元の服を握った。

雛子を抱き上げた手に力を込め、車に向かって歩き出した。

篠原は、タイミングよくドアを開ける。

「きっ桐生院様!?」

呼び止める美奈子達に答えたかように立ち止まった。

「尚人!」

低い声が響く。

「…はい…」

桜華は何も言わない。

「わかりました…」

尚人が返事をした。

それを確認すると車の中へと乗り込む。

篠原もドアを閉めると運転席へ乗り込んだ。
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