無垢な瞳
第四章

シナリオどおり僕らはすばやく動いた。

沢村先生がパーテーションをグランドピアノの横に配置する。

そしてあらかじめ用意しておいたテープを流す。

「ご来場の皆様に、前もってお願いがございます。共演のたんぽぽ学級の渡瀬コウくんには聴覚過敏の障害があります。皆様のご好意の拍手が渡瀬君にとって苦痛以外のなにものでもありません。恐れ入りますが、私たちの演目が終わっても拍手はご遠慮くださりますようあらかじめお願いいたします。尚、ピアノの横にあるパーテーションにつきましても、渡瀬君の心を落ち着かせるために必要不可欠なものです。演奏中の様子をご披露できないのは残念ですが、ご理解いただきたいと思います」

一瞬会場がざわついたが、すぐ理解されたようだ。

もとの落ち着きが取り戻された。



ケンは舞台袖からコウと手をつないで登場する際に、客席を探した。

コウの母が右手を上げて合図したのは見えた。

が、ケンの母を見つけることはできなかった。

どこか隅のほうにこっそり座ってみているのかもしれない。

今日のステージはどうしても母さんに見てほしかった。

このステージを母さんが見てくれれば、きっと安心してくれるはずなのに。
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