無声な私。無表情の君。
そして、いよいよ本当に帰る時が来てしまった。
あっという間の1日だった。

「…あのさ、ちょっと寄ってもいいか?」

急に呟く康介。
それは私に言ってるんだよね?

【どこに?】

「…愛の家」

え、私の家?どうして?

だけども、離れたくない。って思ってる自分がいるから断る事は出来なかった。

【ん、へーき】

「じゃ、行こ」

差し出される手に笑顔が溢れる。
大きくて、暖かい康介の手。
少しゴツゴツしてて、たくましい康介の手。
触れてる。触れられてる。
嬉しい。幸せだ。

このひと時を忘れる事はないだろう。
私たちにとって今年の最初で最後のデート。
でも、受験さえ終わればまたデート出来るんだよね。
それまで頑張ろうね。康介。

住宅街に入るとすぐに私の家に着く。
なんだか、手をつないでいるのが一瞬に思えてならなかった。

ガチャ

家の鍵を開けて康介を家の中に招く。

「お邪魔します」

誰もいないから言わなくても良いんだけどね。
お母さんたち、私に彼氏がいるって聞いたらどうなるんだろう?
きっと喜んでくれるよね?
こんなに素敵な人なんだから。
その為には、声を取り戻さないと。
失声症。絶対に治してやる。

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