冷血上司の恋愛論
車に乗り込むと、横からフゥーと大きく息を吐き出す音が聞こえる。


最後に店を出る時に、田所の目が藤井をずっと追いかけていた。


それを知ってか知らずか、藤井は一度も田所と嫁を見ていなかった。少し俯いたまま頭を下げていたのだ。


本来なら、その失礼な態度に一言もの申すところだが、藤井の心情を考えるとそうもいかない。


「よく、頑張ったな」


エンジンをかけて、横を見ると、シートベルトに手をかけたまま驚愕の瞳を向ける藤井と目があった。


「何でですかね?」


ポツリと呟く。


俺は、無言で車を走らせた。


行きより少し荒い運転は、俺の苛立ちの表れだ。


何で……か。俺も、そう思うよ。


藤井のことを知らずに笑っている嫁に腹も立つ。でもそれ以上に、田所の、嫁が現れてからの態度に腸が煮えくり返る。


「アイツ、中途半端だな」


つい、口から出てしまった。


藤井を捨てておいて、未練たっぷりに目で追ったりするなって!
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