冷血上司の恋愛論
ホッチキスでとめた少し厚めの紙の束を渡して、田所に目を向けた。


「田所さん、奥さんを大事にするのは結構ですが、おろそかにしないで下さいね。うちは大手ですが、個人にも手を抜きませんので」


いろんな意味でね。とは、言わずに、真剣な目をやれば、わかりましたと礼儀正しく頭を下げる。


こんなヤツに藤井が泣かされるなんてくそ食らえだ。


「藤井、言うことはありますか?」


俺は、田所を動揺させるために、わざと藤井の名前を出してやる。


文句言うことも、なかったことにすることも自由だ。


「いえ。ヒアリングシートが出来上がってきてから奥さんの意向を聞きますね」


ニコリと田所に笑みを向け、


「身体、無理しないで下さいね。大事な命を授かっているのですから」


と奥さんに優しい言葉を掛けていた。


藤井が今こうしているのなら、部外者は口出し出来ない。


ただ見守ってやるだけ。


次回のアポを取り付けてから俺たちは店を後にした。
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