冷血上司の恋愛論
こうなると、冷静な俺はすぐにいろんなことを思い付く。


「部長!今、専務から電話で、『早めに責任もって送ってやってくれ』と言われたので抜けさせて頂きます」


ポカンとした藤井の顔と、酔いも一気に冷めたような部長の顔を横目に、藤井の鞄を手に取り、出口に向かう。


「あぁ、そうだな。藤城なら安心だろう。藤井、専務に宜しくな」


女共の視線を感じたが、別に藤井の手を取ったわけではない。


無表情で顔を顰めて見せれば、奴等は俺が嫌々送って行くのだと思っただろう。


「お疲れ様でした。今日はありがとうございました。お先に失礼します」


藤井の挨拶で、あちこちからお疲れ様の声があがる。


俺の後ろを、きっと頭を下げながら歩いているのだろう。想像してゆるんだ口元を、左手を当てて隠した。


外に出れば、火照った体を心地よい風が包む。もう少し、藤井と一緒に居たいと邪な考えが、頭を掠めていく。


まさか、そんな気を起こすなんて。
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