冷血上司の恋愛論
「泣きたければ泣けばいいのに。お前のプライド、あかの他人の俺の前じゃ必要ないだろ?」


横を向く女の頬をスルスルと撫でてやると目からスーと涙を流した。


ただ静かに。
目を閉じたままゆっくりとシーツに涙が染み込んでいく。


それから俺は女を胸に強く抱き止め、髪を撫でてやる。


俺までが切ない気持ちになってきて、胸が痛むのは何故だ?


「ゴメン」


ひとしきり泣いた後、女が恥ずかしそうに苦笑する。


「無理に笑う必要はない。ただ、もっと自分を大切にした方がいい。見ず知らずの男に妊娠させられる可能性がないわけじゃないことくらいわかりきっているのに」


抱いてしまった俺が言うのもおかしいがと言うと、声をあげて女は笑った。


「俺は寝る。好きに露天風呂使ってくれ。朝の七時には、団体で朝食だから、それまでに出てってもらえると助かる」


最後まで言えたかどうか、俺は心地よい倦怠感に包まれ眠りについた。
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