ぼくたちはあいをしらない
――西野邸

 静香なる空間。
 ただ、時計の振り子の音のみが聞こえる。

「さて……
 風舞さん貴方、また人を殺しましたね」

 20代前半の若い女性が、風舞に尋ねた。
 その表情は、怒っているわけでも悲しんでいるわけでもなかった。
 母親が、近所の子と近所の子が喧嘩したかどうかを尋ねる。
 そんな様子だった。

「別に悪いことなの?
 あのまま大人になって『昔、自分も悪だった』と得意気に話すおやぢ嫌いなんだよね。
 傷つけられた人は一生の傷を追うのに傷つけた人たちは罰を受けていない限り笑い話や武勇伝にしている。
 だから、僕が代わりに罰を与える」

「それは、素晴らしいことだわ」

 若い女性が、そう言って笑う。

「で、タネさん。
 俺らに用事があるんじゃないのか?」

 轟が、そう言って若い女性に話しかける。

「用事がなきゃ、呼んじゃダメかしら?
 貴方たち、あまり家に帰らないから私寂しくて……」

 タネと呼ばれる女性はそう言って顔を両手で覆った。

「マスターは、貴方たちの顔を見たかっただけです。
 長期不在するときはひとこと声をかけてくれないと心配しますから……」

 そう言ったのは表情を変えず淡々と言葉を放つ少女レテ。
 見た目は10歳前後の少女だ。

「ってか、レテ。
 お前とはこの間あっただろう?
 ミラクルなんとかクレープを奢ってやったじゃないか」

 轟がため息混じりにそう言った。

「ミラクルフルーツデラックスイチゴクレープ……
 あれは、美味しかった」

 レテが、小さく笑う。

「あれ先週の話だろう?」

「なにですかそれは?」

 轟とレテの会話にタネが入ってくる。

「マクベスバーガーの新商品で、女子供に人気のクレープのことだよ」

 風舞が、面倒くさそうにそう言った。

「へぇー。
 それは私も食べたいわね」

 タネがそう言うと手をぱちんと叩き言葉を続ける。

「そだわ。
 今から、そのクレープを食べに行きませんこと?」

「マジでか?」

 そう言って先ほどまで横になり興味なさそうに話を聞いていた灰児が、体を起こす。

「あら。
 灰児聞いていたの?」

 タネが、そう言うと灰児は嬉しそうに喉を鳴らす。

「あそこで働いているバイトの女の子滅茶かわいんだよなぁ―」

「女遊びはほどほどにしなさいよね」

 タネがそう言うと灰児が笑う。

「ああ。その女、俺の虜にしてクレープのレシピを盗ませていつでも食べれるようにしてやるよ」

 それを聞いたレテが首を横に振る。

「灰児ダメ。
 クレープはどこで食べるかでも美味しさが変わるの。
 ミラクルフルーツデラックスイチゴクレープは、マクベスバーガー内で食べるのが美味しいの」

「はいはい。
 じゃ、殺さず脅さず遊ぶ程度に止めといてやるよ」

 灰児は、そう言って立ち上がった。

「じゃ、みなさんで行きましょう!」

 タネが、そう言って嬉しそうに風舞と腕を組む。

「どうして腕組?」

「こうすると生徒と教師のいけない関係に見えなくないですか?」

「みえない」

 風舞が即答した。

「まぁ、いいじゃないですか。
 一緒にマクベスバーガーに行きましょう。
 今日は私の奢りです」

「ラッキー」

 轟が嬉しそうに笑う。

「さぁ、行きましょう」

 タネは、嬉しそうに笑うと風舞たちをつれて屋敷をあとにした。
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