嘘恋





「なぁ、そろそろ寝ない?」









成瀬の手があたしの腰に回る。






「ごめんね。あたしやっぱり今日帰る!」






「え?帰んの?」





「うんっ。今日はありがとね」









そう言って成瀬から離れ家を出た。








まだ時間は11時。




実は、さっきお母さんからの着信が入っていた。







やっぱり誕生日は特別な日。




あたしを産んでくれたお母さんと見守ってくれたお父さんに




一番感謝しないといけないんだ。





それだけじゃない。


この日は、ぱぱとママが一生懸命支度をしてあたしをまっていてくれてる。





成瀬に出会えたことも
たくさんの友達に出会えことも





あたしを産んでくれた二人のおかげ










走って家に着くと明かりは消えていた。








もうこんな時間だから寝ちゃったかな。





ゆっくりカギを開けて中へ入る。





リビングの明かりをつけると







「あ…」









毎年、あたしの誕生日に飾られるお花の折り紙が、今日もたくさん部屋に飾られていた。








テーブルの上には私の好きな唐揚げがたくさんあって、他にもなにやらいっぱいある。






ケーキには

『香奈生まれてきてくれてありがとう』





そう、書いてある。








「…っ」






こんな時間まで、ご飯も食べずに待っててくれてたんだ。






ふたりはイスに座りながら寝てしまっている。










あたしがいつ帰るかわからないのに。


だって今日は泊まりって言ってあったんだよ?

それなのに待ってるなんて。








涙が溢れて、息がつまる。





そんなあたしに気づいたのはお父さん。







「…お?帰ったのか」





「うんっ…」






「おかえり」







「うんっ…」








その言葉が優しくて

なんだか胸が苦しくなって涙が出そう。








「母さん、香奈が帰ってきたよ」





「…ぇ?あら、香奈おかえり」






「ただいまっ」






「すぐおかずあっためるからね。座ってなさい」








そう笑ってあたしの頭を撫でるお母さんにまた涙がこぼれた。









言葉にだすのは照れくさいから




言えないけど。







『あたしを産んでくれてありがとう』
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