スセリの花冠
するとディアランは、先程までの控えめな態度をガラリと変えて不満気にアルファスを見た。

「当たり前だろ。アルドの森は近衛兵の管轄外だ。それに山賊狩りは騎馬隊の役目だろうが」

「……」

これには……ちゃんとした理由があるんだ。

アルファスは騎馬隊長ディルの顔を思い浮かべながら、グッと唇を引き結んだ。

アルファスの父である先代の王は、ひとり息子のアルファスの友として、ディルやディアランを兄弟のように育てた。

三人は学問も武術も何もかも同じように学び、日々を過ごしてきた。

したがって騎馬隊長ディルは、ディアラン同様アルファスの兄のような存在である。

そんな騎馬隊長ディルの妻が臨月で、産婆の話ではここ三日で産まれるという。

山賊狩りに立つと出産には立ち会えない。

いや、立ち会えないどころか妻とも永遠の別れが来るかもしれない。

ディルの妻は病気がちな体質で、今まで幾度となく子をもうけたが、死産であったのだ。

産婆には、出産はこれが最後だといわれている。

さもなくば妻の命も危険だと。

騎馬隊長ディルは、責任感の強い男である。

何があっても王に命じられれば従う男であり、自分から私用を理由に仕事を断るような人間ではなかった。

自分に厳しいディルはその事実を隠し続けたために、知っているのはアルファスのみで、まだディアランの耳には届いていなかったのだ。

後で話すが……兄の一大事だったんだ。

アルファスはディアランの首に腕を回して抱き寄せた。
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