彼氏と思っていいですか?
もうこれは五時間目サボり決定だな、と頭の端っこで考えた。
朝陽くん、ショックだったんだろうなと思った。
私だって打ちのめされているんだから当然だ。

とはいえ、どこからどこまで耳にしたのか気がかりでもあった。
確かめようとして至近距離にいたことも忘れてなんの用意もなく横を向くと、視線がぶつかった。


あっと思った、その直後――。
私は朝陽くんに抱きしめられていた。


制服の半袖から伸びた筋肉質の腕。荒っぽい仕草。素肌の質感の違いと熱。

気が動転した。
無言で身体を押しのけてはじかれたように距離を取ると、座ったままの彼を見おろした。


朝陽くんは上目遣いでこちらを見ていた。
怒ったような泣きたがっているような複雑な表情。
かすかに視線が揺れている。

ごめんと言われたのだったか、名前を呼ばれたのだったか、よく覚えていない。
私はその場から走って逃げた。
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