彼氏と思っていいですか?
5.熱
そのあと、遅刻しながらも音楽の授業に出た。
平常心平常心、と言い聞かせながら譜面を追うものの、目は音符の上を滑るわ歌詞は入ってこないわで、完全に腑抜け状態。
部活でもサッカー部の練習風景が見える窓際には近寄らないようにした。


気が緩むとさっきの場面が思い起こされる。
抱き寄せられたあのときのこと。

朝陽くん、細いと思っていたけど意外に筋肉があった。
腕も胸もがっちりしてて、私の知っている朝陽くんの匂いをすごく近くに感じた。

やっぱり男の子なんだなあ。私とは全然違う。
あれは一瞬だったけど、ちゃんと抱きしめられたら、私なんてすっぽり包まれてしまいそうで……。

−−って、わあああ!!
なに考えてるの!?


「−−なにやってるの」

「え」

「頭でも冷やしてるの?」

向けられた声にはっとする。
三角巾にエプロン姿の調理部の先輩がすぐ脇に立っていた。
私はというと、知らず知らずのうちに食器棚のガラス戸に額を押しつけているところだった。
言わずと知れた、放課後の部活中だ。

「あっ、頭、うんそうです。頭のあたりを少々」

「あはは、変なのー」

気に留めるでもなく、先輩は調理準備室のほうに行ってしまった。

−−よかった。
というか、私、今のこれ、またやりそうだ。

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