アイドルなんて、なりたくない<font color=
静の登場は、明らかに優衣を動揺させた。

静は優衣の隣に座り

「優衣、矢はあなたの心を映します。教えを忘れた訳ではないでしょう?」

静かな問い掛けに、優衣はグッと拳を握る。

「『風なき水面の如く、静かな心であれ』です」

優衣の答えに静は頷いてから

「そうです。矢は心を映します。乱れた心では矢は的を射ぬく事はありません。それでも、弓を引いたのは何故ですか?」

静の言葉は、優衣の心を射ぬいた。

優衣は、唇を噛んでから

「…静かなる心を取り戻す為です」

小さな声で答える。

静は天を仰いでから

「弓の道は、静かなる心が必要ですが、必ずしも弓を射る事で平常心を持てるとは限らないのですよ」

優しいが厳しい静の言葉に

「申し訳ありません」

優衣は、手をついて頭を下げた。

「何を謝る必要があるのです?乱れた心を宥めようとする事は間違いではありませんよ」

「ですが…」

「ただ、あなたのその迷いは、あなた自身がきちんと向き合い考えなければ晴れる事はありません」

「はい」

優衣は、肩を落とす。

「優衣、何を迷っているのですか?あなたはやってみたいのでしょう?」
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