躊躇いと戸惑いの中で


ピンクのレーザービームに負けない、できる女的なしゃきっとした態度をなんとか貫いていたら早速のお誘いだ。

「碓氷さん。今日、定時に上がれますか?」

余裕綽々としたすっきり顔の乾君から、夜の予定を訊ねられる。
けど、朝から帰りの話をされても、予定は立てられない。

「ああ、まだ判らないかな」

苦笑いで乾君を見ると、ですよね。なんて笑っている。
思わず釣られて笑いそうになったけれど、公私混同、公私混同と念仏のように胸の中で唱えて冷静さを装った。

「僕、今日は新店から依頼されたのを作成して設置したら、そのまま直帰なんです。よかったら、一緒に食事しませんか?」

今朝も変わらずの直球だ。
他の社員が居るのなんてお構いなしに、食事の誘いを平然としてくる。

ここまでくると清々しい?

彼の態度がどれくらい周囲に影響しているか窺い見てみたら、経理畑うん十年の田山さんがニヤニヤしてこちらを見ていた。

あれは絶対に面白がっている顔だ。
余計な噂が広がらないことを願う。

「食事ね。うん。わかった。一応、スケジュールに入れておくけど、定時に上がれるかはまだなんとも、ね」
「はい。あとで、連絡ください」

乾君はそう言うと、自分の連絡先が書かれた小さなメモ用紙を私に手渡していった。

食事か。
誘われた嬉しさを隠しきれず、さっそく今日のスケジュール確認。

うっ。
やることいっぱい……。


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