粉雪
あたしが毎日、この時間にエレベーターを利用してるのを知ってる?



自分だけの時間。
自分だけの空間を毎夜、満喫しているつもりでいた。

メガネもポニーテールも外してしまい、素の自分にスッカリ戻って。



「どお?せっかく同じ時間を共有してるんだ。
この後、先約がないなら」



こんな時間に……先約なんてあるはずないじゃない。それを承知で?



少し卑屈になり、外の景色に目を向ける。


突然、エレベーターに乗ってきた男性の言葉や仕草が気になる。


さっきまで、元彼のことを考えて鬱いでいたのに……。

ガラス越しに、はらはらと舞う小さな白い華。



「天気予報は 外れないね」



男性が言い終えると同時に、エレベーターの扉がスーッと開いた。



終点1階。



男性は歩きながら黒い折り畳み傘を取り出した。


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