駆け抜けた少女-番外編-


普段は遠慮なく部屋に入ってくる平助さんも、さすがに弱った私には遠慮という配慮が出来るらしく少しだけ開いた戸の隙間から様子を窺っている。


「大丈夫…コホッ…ですよ~」

「ううん。昨日の昼間は元気だったのに、何がいけなかったんだろう?」


確かに昨日の昼は、まさか今日こうして寝込むなんて思ってもみなかった。

だけどなってしまったものは仕方ないから、今は治すことに集中しなくちゃいけない。



───そう思うのに。




「おーい、矢央!!風邪ひいて寝込んでるって本当か!?」



───スパーンッッ!!



此処は副長室で、あなたは沖田さんか、と言いたいくらい勢いよく戸が開き、その反動でか平助さんがドサッと畳の上に顔面を沈めている。



「…あ、平助いたのか?小さくて見えてなかったぜ!!」


いやいや、それは嘘でしょ。


「…左之さん、あんた腹斬っても死ななかったんだよね。だったらさあ、今度はいっそのことおもいっきって首……いっとく?」


のそりと起き上がった平助さんの鼻先が赤い──じゃなくて、カチャリと刀に手をかける平助さんに危ない予感がした私は、慌てて布団から這い出て平助さんの背中に飛び付いた。





< 7 / 30 >

この作品をシェア

pagetop