冷徹執事様はCEO!?
もう、田中と会うのはこれっきりかもしれない。


その姿を忘れないように目に焼き付けておこうと思って最後に一度振り返る。

だけど涙でぼやけてよく見えない。

真っすぐに伸びた背筋、美しいけど感情のない人形のような顔、抑揚のない話し方、そして時折見せる優しい笑顔。

「行くぞ」

匠ちゃんに促されてタクシーの後部座席に乗り込む。

堰を切ったように目から涙が溢れた。手の甲で何度も拭うが次から次へと溢れて止まらない。

「稜はやめろ。経営者としては群を抜いて優秀だが、男としてはロクでもない」

匠ちゃんは吐き捨てるように言った。

わかってる。わかってるけど、もう会えないと思うと胸が苦しくてたまらない。


本当は田中に『葛城家の次女』ではなく、一人の女性として見てもらいたかった。

だけど、その想いが叶うことはないだろう。
事実、田中は私を引き留めようとしなかった。

匠ちゃんもそれをわかっている。だから、これ以上傷つかないように私を田中から強引に引き離した。


私は一層泣きじゃくる。

航生とは正反対で、女心に疎い匠ちゃんは困り果た様子だ。

「兄ちゃんがいい男見つけてやる。だから泣くな」私の頭をグシャグシャと不器用な手つきで撫でる。

兄ちゃん… そんな風に匠ちゃんが自分を呼んだのは随分久しぶりだなぁと思った。

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