イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―


風間の部屋に来る事が増えてきた大学一年目の冬、コーヒーしかない事にいつもの感じで文句をつけたら、次来た時にはココアが買ってあって。
それを私のためだとは風間は言わなかったけれど、風間は飲まない事を知っていたからそれ以外には考えられなかった。

それから私がこの部屋に来ると必ず出てきたココア。
夏には牛乳と氷を入れてアイスにしたりして、ここ数年は風間の部屋にくれば黙っててもココアが出てくるって感じになっていた。

でも、この間来た時はなかった。
切らしてるからコンビニで買ってくるっていう風間を止めて、あの時は私もブラックのコーヒーを飲んだ。
いつも通りの日常に溶け込ませる事無く、その時の風間との事を記憶に留めておきたかったから。

それに、ココアがないって話になったのは、風間と関係を持った後だったから。
私に触れる風間に、風間の気持ちを知ってしまった後だったから……それまで通り風間の押しつけがましくも感じる強引な優しさに甘えるわけにはいかなかった。

「別にこれだけ買いに行ったわけじゃねーよ。買い物のついで」

「うぬぼれんな」と言った風間が、ちらっと振り返って笑う。
その笑みになんとか苦笑いを返してはみたけれど。
そんな私に風間は何も言わなかった。

部屋の空気がおかしいのは、私の気のせいだろうか。
風間とふたりきりの、一度罪を犯したこの部屋に……まるで監視されているような気がした。


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