イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―


「おまえが書いた絵ってもうないのか?」
「さぁ。どこかにはあるんじゃない? さすがに捨てたりはしなそうだし」
「せっかくなら見たかったな」
「うん。でも、こんな感じだよ。同じ校舎をそれなりに絵がうまい生徒が描くんだもん。出来はそう変わらないよ」
「ずっと、校庭で書いてたのか?」
「途中までね。色をつける段階からは美術室だったし。私の時は、写真撮って、それを見ながらの作業だったよ。
でも、下書きの時はずっと校庭にいたから、そうすると運動部から邪魔扱いされたりした」

今年の美術部が描き上げた校舎を見つめながら、思い出を話す。
吹奏楽部の主張しすぎない演奏が心地いい。

「中等部の校庭から描いてたんだけど、そうすると、サッカー部とかテニス部のボールが飛んできてぶつかるの。
中一の時、一度、サッカーボールが頭にぶつかった事があって……」

懐かしい思い出話に、楽しく話し出したのはよかったけれど、そこでぷつりと止まってしまう。
絵を見つめたまま黙った私を風間が見たのが、瞳の端で分かった。

「……祥太か」

勘がいい風間には黙ったところで意味がないようで。
言い当てられて、ふっと笑みを浮かべながら頷いた。

楽しかった思い出を、懐かしいなぁって思い起こしているだけなのに。
笑みに苦さが混じってしまうのはなんでだろう。


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