イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「この絵だけ随分でかいんだな」
「うん……。この絵ね、毎年、美術部が総出で描くのが決まりなの。中等部も一緒に。
校庭から校舎を見た絵なんだけど……そっか、まだ続いてたんだ。懐かしい」
「ああ、そっか。おまえ美術部だったんだっけ」
「うん。だから六回この絵を書いたの。
中等部の頃はただの使いパシリみたいな感じだったけど……でも、仕上がっていく絵を見るの楽しかったな。
部分部分でそれぞれの個性が出てたりして。色の塗り方とか」
題としては、校庭から見る校舎の絵ってだけだから、その条件さえ満たせばどの角度からでもいい。
だから私の在学中も、その前の年とは違う角度になるよう工夫して書いたけれど……結局、校舎は校舎でそれほど変わったものが出来上がるわけもなく。
どんなに工夫したところで、アングルが少し違う、なんの変哲もない校舎が描きあげられるだけだった。
それでも、みんなで協力して描き上げたその絵はキラキラしてたし、何より共同作業が楽しかった。
存在意義なんて言えば大げさに聞こえるけど、でも高校生の私にとってはそんな感じだったんだと思う。
この絵がなによりの、私がここに在学していた証明だった。