イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―


「色々、思い出せたか?」

今まで私に好きなようにさせて自分はただ黙ってついてきていた風間が、静かに聞く。

「思い出せたよ。ここには、どこにいても祥太との思い出があるから。でも……」

過去の事実は思い出せても、一番思い出したかったモノは――。

そんな自分に苦笑いを浮かべてから、教室を見渡す。
今は使われていないのか、少し埃っぽい、何年何組という名前を持たない教室を。

「三年のバレンタインにね、祥太が他の女の子に呼び出されたの。
その頃には私と付き合ってたんだけど、祥太は呼ばれてるのに行かないわけにはいかないしって言って、待ち合わせの教室に行って。
それを見てた友達が、覗き見に行こうよなんて誘うから……私もちゃんと断れるのか気になったし、見に行った」

脳裏に浮かぶのは、夕暮れの教室に並ぶ、ふたりの影。
距離の近い、影。

「女の子は、好きだって言ってチョコを差し出して……それを祥太はありがとうって笑顔で受け取ってた。
断るって事ができないヤツだから。困りながらも、あの、へらってした笑顔で受け取ってて……それ見て、ああやっぱりなって思って。
でも、やっぱり悲しかった」


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