義兄(あに)と悪魔と私
 
「じゃあ聞くけど、比呂くんのお母さんが自殺したのは、私の母とおじさんが不倫したせい?」

瞬間、比呂くんは弾かれたように顔を上げる。

「……コウから聞いたの」
「ずっと知ってたってこと? 二人が結婚する前から?」
「質問に答えろよ」
「そっちだって答えてない!」

私は思わず声を荒げた。
比呂くんはため息をついて、私を見る。

「そんなこと知って、今更どうするんだ」
「今更じゃないよ。こんな危うい日常は、いつ壊れてしまうか分からない。たとえ、私とあなたが秘密を守ったとしても」

私は母が大切だった。だから、私は自分を殺した。
そうすれば、母を、母の秘密を、守れると思ったから。
けれど、それだけでは足りないのだ。
もしもこの先もずっと、……望むなら。

「失う時はあっという間だよ。私みたいに」

今現在の学校での自分の状況を思い出して、私は自嘲気味に笑った。
 
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