義兄(あに)と悪魔と私
 
恐る恐る聞いた私を一瞥した比呂くんは、繋いでいた手を離した。

「何か不満?」
「あ、あの人何で戻って来たんだろう……って、思って」
「さぁ、忘れ物じゃないの」
「……なのかな」

結局分からずじまいだ。今はもう母も見失ってしまった。

「あの……助けてくれて、ありがとう。冷静なんだね」
「まぁ、君よりは……慣れてるから」

比呂くんはぶっきらぼうに言った。

私の邪魔をして、なんだかんだ言っても、こうして私を助けてくれた。
一方の私といえば、母の不倫を止めさせるなんて言ったわりに、いざ相対してみれば情けない限り。

「ごめんね……」
「謝らなくていいから、もう一人でこういうことしないでね。危なっかしくて見てられないし。
それから、あの男とはもう関わらないように」
「……それは、どういう意味?」

聞き返した私に、比呂くんは今まで黙ってだけど、と前置きした。
 
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