義兄(あに)と悪魔と私
 
それがどうしたと、自分に言い聞かせようとはした。
たとえ良子さんの今の不倫が彼女の本意ではないとしても、母親を自殺に追い込んだ事実は変わらない。

そちらの事情など、関係ない。
それなのに、この苛立ちはおさまらない。

そして、修学旅行の夜。
円の友人の梶川麻実からの告白。

「他に好きな人がいるんだ」

そんな人はいない。でもあと腐れなく断るには丁度よいと思った嘘。
しかし、返ってきた言葉は予想外のものだった。

「有坂くんって、もしかして……円のことが好き?」
「え?」
「ごめん、なんとなく円を見てるかなぁって……そう思っただけ。違うならいいの」

梶川は反応を伺うように俺を見た。
そんなところを見られていたのか、と内心ヒヤリとする。

「ここだけの話だけど、俺の父親と北見さんの母親が再婚したんだ。だから彼女とは兄妹。好きになったりなんか、するわけないよ」
 
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