義兄(あに)と悪魔と私
ひとつ屋根の下に、自分のことを異性として見てくる兄がいる円の気持ちを考えてみろ。
俺は早急に円への気持ちを吹っ切って、単なる兄に徹しなければならなかった。
たとえ演技でも。
しばらく部屋にこもっていた円がようやく出てきたのは、八月の登校日になってから。
正直心の準備が万全とは言えなかったが、単なる兄としての一歩を踏み出すため、円を良子さんのお見舞いに誘う。
一瞬渋られた気もしたが、二人で出掛ける約束を取り付けると、やはり嬉しい。
もちろん、行くのは楽しいところではないわけだが。
しかし、放課後良子さんの病院に向かう途中、円はずっと上の空だった。
「やっぱりやめておく?」
そして――円を気遣ったつもりだった、俺の一言から口論になってしまう。