義兄(あに)と悪魔と私
円は怒って、帰ると言った。
帰りのバス停へと歩いて行く円は、信号が赤になっているのに気づいていない。
「――円!」
精一杯叫んだけれど、彼女には届かない。
間に合わない、そう思ったら身体が勝手に動いた。
次に気づいた時には、俺は地面に倒れていた。
傍らに広がる赤い色が視界をかすめ、円が泣きながら、感覚の薄い俺の手を握りしめているような気がする。
漠然と、自分が死ぬのだと思った。
様々な後悔が一瞬だけ頭をよぎったけれど、円を守って死ねるのなら悪くない。
これで許されるとは思わないけれど、少しは償えただろうか。
「死なないで……比呂くん。お願いだよ」
薄れ行く意識の中、円に惜しまれて死ねる。それだけで嬉しかったのに。
「ずっと言えなかったけど……私、好きなの。比呂くんのことが、好き」