義兄(あに)と悪魔と私
 
翌日は、憎いくらいの旅行日和だった。雲一つない晴天に恵まれ、その日差しには初夏を感じさせられる。

「昨日は曇ってたから心配だったけど、晴れて良かったね」

少しも落ち込むところを見せない麻実は、今日も相変わらず明るかった。

「うん。少し暑いくらい……」

テーマパーク内のアトラクションに並ぶ列で、私はじわりと額に浮かんだ汗を拭った。

私と麻実は待ち時間の間、たわいない話を繰り返す。
独身アラサーの担任にとうとう彼女ができたとか、隣のクラスの誰々が読者モデルをやっている、とか。

お互いに、決して比呂くんの名前は出さなかった。

「ごめん円、あたしちょっとお手洗い」

麻実がそう言い出したのは、ちょうどアトラクションの出口でのことだった。
私は頷いて、出口近くのグッズ売場を眺めながら待ったが、待てども待てども麻実は戻らない。
 
< 82 / 228 >

この作品をシェア

pagetop